アンモナイト

アンモナイト

千葉出身のヴィジュアル系バンドの11th。いわゆるネオV系と呼ばれる一部のバンドと同列に語られることも多いが、結成は古く、1993年。1995年には1stのStrange fruitsを発表しており、X JAPAN以後のV系ブームを率いた一員でもあり、現在までシーンにおいて独自の地位を守り続け、むしろ多くの後進のバンドに影響を与えてきた側といえるだろう。私がこのバンドに出会ったのは8thのネガとポジの頃で、V系バンドとかそういう情報を一切抜きで、『ザザ降り、ザザ鳴り。』を聴いて、「お、なかなかカッコいいバンドじゃん」と思ったのが最初だ。
数多くのV系バンドが存在する中で、Plastic Treeはその楽曲面で一線を画しているといえる。V系バンドの基本はもちろんロックだが、そのなかでもメタル、ヘヴィロック、ゴス、パンク、あるいはパワーポップといったジャンルに偏っているといえる。それはV系黎明期におけるX JAPANやCOLORなどの影響が大きいためであろうし、近年ではDIR EN GREY(彼らはもはやV系とは違う領域に行ってしまってはいるが)の影響も大きい。そのなかにおいてPlastic Treeオルタナティブ、あるいはUKロックを基調としながらシューゲイザー、音響系、エモなど要素をふんだんに織り込み、時にポストロックへ接近を見せたり、あるいは変態的なメロディーが出てきたりと、先にも述べたように完全に凡百のV系バンドとは一線を画しているし、また、Vo.&Gt.の有村竜太朗による文学的な歌詞と独特の浮遊感ある歌声もこのバンドの大きな特徴のひとつである。V系というよりむしろ、ロキノン系(もちろんいい意味で)のくくりに入れたほうがしっくりきそうで、私も実際そちら方面のバンドだと、当初は思っていた。というか、ロキノン系の括りに入れたとしてもそんじょそこらのオルタナエモ文系バンドじゃ太刀打ちできないだろう。
本作は様々な困難を乗り越えて発表された作品である。昨年末、有村がギラン・バレー症候群を発症し、予定されていたライブが中止され、アルバムの制作もストップするなど大きな影響を与え、有村復帰後も件の震災で発売も遅延した。そのような障害の数々を乗り越えて無事に本作が発表され、リスナーの手に届けられたのは純粋に喜ばしい。今作も彼らの独自性がよく出た作品になっている。まず#1:Thirteenth Fridayでは、シューゲイザー直系のひしゃげたサイケデリアを聞かせてくれるし、#8:デュエットは和音階やら音響系やらなんやらをぶちこんだ、Gt.ナカヤマアキラの狂気が炸裂している。また、#13:spookyはヘビィに疾走する演奏に有村の浮遊感あるボーカルが乗り、これまたプラにしかできない楽曲になっている。そして、本作においてどうしても取り上げざるを得ないのは#12:ブルーバックだろう。前半の静謐パートから後半のヘヴィパートへ移り変わる演奏もともかく、有村の入院時の心象風景が如実に描写されていて、なんとも言い表せない哀愁を漂わせている。個人的にはバンドの歴史に残る名曲だと思う。
ただ、難を言うならば個々の楽曲を見ていくと、以前にも同じような感じの楽曲があったような・・・と思うようなところもあるという点。たとえば#10:さびしんぼう。しかし、アルバム全体としてはよくまとまっており、佳作といえる。
本作もまたご多分にもれずヴァージョン違いがあるが、#12と#13が収録されている通常版の購入をおすすめする。この2曲を聴かずして本作を語るのは間違いだと断言しよう。