今日の命名規約ゼミで議論したことのおさらい的な。比較的理解しやすい部分だったけれども、擁護名、遺失名、抑制名などが出てきており、内容は重要。特に遺失名と判断する基準をみんな認識間違いしていた(私を除く)。「新参名が慣用されており(直近50年間で10年を下回らない期間中に、10名以上の著者によって25編以上の著作物に用いられているとき)」かつ「1900年以降古参名が一度も使われていない」場合は、古参名を遺失名と判断する。それ以外の場合では新参命はあくまで新参名であり、古参名の方が優先権を持つ。ただし、新参名を用いるのが現在では一般的で、学名の安定が古参名に脅かされる場合は、審議会に提訴して強権によって古参名を抑制しなければならない。
なんともややこしいこの問題を、自分が卒論で取り扱っているGeostibaという属が抱えていた。
Geostibaの例では、Aleochara circellarisという種をタイプ種として、1856年にEvanistesという属が設立され、1858年にGeostibaが設立された。これだけ見れば客観異名なので、先に設立されたEvanistesが有効なのだが、その後に広く用いられたのはGeostibaであった。そして、1900年以降古参名は用いられていなかったのである。
しかし、1952年にBlackwelderが「これまでGeostibaを有効名としてきたのは誤りで、Evanistesの方が古参名なのだから、こちらを使いましょう。」としてしまった。ここでEvanistesを皆使い始めればよかったのだが、やっぱりGeostibaの方が馴染みがあったらしく、Blackwelderの処置に従わなかった。そして今日まで至り、ますますGeostibaの方が馴染みある学名になった。しかし、先取権の原理に従えばEvanistesの方が有効である・・・ 馴染みある学名が変わってしまうので、困った研究者は審議会に提訴して、Evanistesを抑制名にしたのである。
この経緯を知っていたので、遺失名の判断基準を私だけは認識間違いしていなかった。正直なところ、自分で実例に当たらないと、こうのようなややこしいところは覚えられない気がする。